アマカン講談師の講談的ひとりごと

講談と講談師について、アマチュア講談師が気ままに語ります。

第七席 講談のネタ

講談の演目、ネタは30ほどしか持ってないんですが、
「このネタ、本当に出会えてよかったー」
というネタ、あります。

どのネタも「出会えてよかったー」というネタなんですが、
特に、このネタは特別〜

そういう講談のネタを挙げるとしたら、
間違いなく
「応挙の幽霊」です。

日本を代表する江戸時代の画家
円山応挙の幽霊画にまつわる講談。

登場人物が少ないのでわかりやすい。
小学校五年生のクラスで読んでも大丈夫、
みんながわかる。
だから、どこででも読める。

そして、結末がいい。
途中から予想がつくんですが、
その予想通りになるところもいい。

この講談を聴いている人たちは
「あ、ああなるんだろうなー
多分、こうなるんだろうなー
あー やっぱりそうだった。
いい話だったなー」

涙を拭う人もいます。

何回聴いても泣く人がいます。

結末がわかっているのに何回も泣く人がいます。

そういう話なんです。

で、どうしてこの講談「応挙の幽霊」を
覚えることになったのかというと、
これがまた面白い。

講談のネタは、基本的には
先生に決めてもらうのですが、

さ、次は何をしようということになって
「先生、四谷怪談 教えてください」
「いいですよー」

そう仰って、先生がトイレに立たれた。

トイレから戻ってきて
一言
「四谷怪談、やっぱりやめよう」
「え?どうしてですか?」
「四谷怪談は、やる前にお岩さんのお墓に墓参りに行かなくちゃいけないんだよ。
ちょっと面倒臭いから、別の怪談「応挙の幽霊」を教えてあげるよ」
「はい、わかりました。よろしくお願いします」

で、「応挙の幽霊」 です。

これは、本当に本当にラッキーでした。

いま、いろいろなところで「応挙の幽霊」を読んでいますが、
もし「四谷怪談」だったら、
いろいろなところで読む前に、
いちいちお岩さんの墓参りに行かないと
お岩さんの祟りがあったかもしれない。

と言うより、
あのような、おどろおどろしい講談は、
子どもに聞かせるのは可哀想だとー。
特に朝の活動で聞かせるのはかわいそうだなと。

先生が気が変わったこと
お岩さんの祟りが今でも言い伝えられていること

このおかげで、私は
「応挙の幽霊」という講談に出会えた訳です。
全く、出会いというのは不思議なものです。

初めて、先生が「応挙の幽霊」をお手本として読んでくださった時に、
グイグイ引き込まれ、終わってすぐに
「あー面白かった」と言ってしまったのを覚えています。

クライマックスで、
先生が、たっぷり間(マ)を取って講談を読まれたことも
印象的でした。

あの間を真似したい、
あのたっぷりの間を、ここで取りたい!と、
読む度に思うのですが、
多分、取れていません。

多分、講談「応挙の幽霊」100回は読んでいると思いますが、
今でも、
「やりとりをもっと軽くイキイキさせればよかった」とか
「間(マ)が短すぎたな」
「全体に早口すぎたかも」とか

反省いろいろ。

講談は、読む度に違う生き物のようなもの、
だから、ネタをずっと育てていけると思うと
嬉しくなります。

ネタ、ひっくり返すと
タネ

どんな花が咲くタネなのか ネタを勉強する度に
心踊ります。

本日のところは、
「講談のネタ」と題しました一席、これをもって読み終わりと致します。