アマカン講談師の講談的ひとりごと

講談と講談師について、アマチュア講談師が気ままに語ります。

第二十一席 講談とストーリーテリングと。

本日は、ストーリーテリングを目指す講談を申し上げたいと思います。

そもそも、ストーリーテリングの元祖が講談ですので、
「ストーリーテリングを目指す講談」というのも、矛盾した言い回しなのですが、

何でもストーリーにして、講談調に読んでいただこうと思い立って始めた
当ブログの目玉カテゴリー?
「講談ストーリーテリング」でございます。

本日は、
「V字回復物語」という講談
一席おつきあいのほど、お願い申し上げます。

今を遡りますこと、26年前のこと、
時代はバブル真っ只中、日本中が浮かれておりました。

熊本に東京からUターンして来た1人の男がおりました。

男の名は吉澤と申します。

大手建設会社の社員で、
海外でプラント建設の仕事をしておりましたが、
結婚相手も決まり、
また、代々商売をやっている家の生まれだからでしょうか、

やはり、商売をやろうという気持ちがムクムクと湧いて来て、
とりあえず、会社を辞めて
熊本に帰り、親の商売を手伝うところから始めることにしたのでございます。
(ここで、講談であれば、張扇をパン‼️と入れたいところ)

父親が経営する会社も建設会社、
景気が良かったこともあり、
大手建設会社の仕事も受注し、
飛ぶ鳥を落とす勢い、

また、活魚料理に欠かせない水槽の製造でもかなりの利益を上げ、
手伝っていた息子の吉澤も、会社を辞めて不安に陥ることもなく
お金には全く苦労をしない日々を送っておりました。

また、長女も生まれ、「やはり、会社を辞めて田舎に帰って良かった」
とつくづく思ったのでございます(ここでも、講談なら、張扇パン‼️かも)

しかし、そんな吉澤にも決して小さくはない悩みがあったのでございます。

「お父さん、今度はこの事業をこういう風に展開していけば、きっと
大きな利益が出るよ」
「何 言ってんだ。 おまえの言うことは、いちいち理屈が多すぎるんだ。
商売は、そんな理屈だけじゃ回らん」

吉澤自身は日経新聞を熟読する、いわばロジカルシンキング派。
父親は、昔ながらのやり方を変えない頑固者。

そのうち、顔を合わせれば言い争いになり、
家庭の中には、常に険悪な雰囲気が漂うようになってまいりました。

ある一日のこと
「ねえ、あなた。
いくらお金があっても、こんな毎日喧嘩ばっかりしてたんじゃ
私の身がもたない。
あなただって大変でしょう。
もう、お父さんからは離れて、自分の事業を起こした方がいいわよ」

吉澤の妻は、2人目の子どもが入っているお腹をさすりながら、
辛そうな表情で言いました。

吉澤は考えました。
「そうだなー。さいわい、貯金通帳には1000万ある。
これで、当座はなんとかしのいで、新しい仕事を見つけよう」

早速、求人広告を探します。

と、ふと目に止まった広告。
「話し方教室
あがり症克服、講師養成」

その広告は
新聞の隅っこの方に縦長に出ていた、さほど目立たない広告でございました。

吉澤は、特にこの広告に何かを感じた訳ではなかったのでございますが、
気がつくと、受話器を取り、
今でも忘れもしない電話番号に電話をかけていたのでございます(講談なら、ここでパン‼️)

「もしもし、あがり症克服の○○話し方教室ですが」
「熊本に住んでいるものですが、話し方教室の講師の仕事について教えていただきたいのですが」
「あー、熊本ですか?こちらは池袋ですけど、一度いらしてください」

電話の主は、熊本など遠くもなんともないだろうという口調でございます。

その翌日、吉澤はその頃まだ随分と高かった航空券を取り、
池袋に向かったのでございます(講談なら、ここでパン‼️)

教室に行ってみると、
15万円もする受講料を払って、
生徒がいっぱい来ている。

「これは、いけそうだ」
そう感じた吉澤は、講師養成講座授業料の150万をすぐに
銀行からおろして来て、
「講師養成講座申し込みます‼️」(パン‼️)

その話し方教室で、講師になるための勉強をして、
故郷熊本で話し方教室を開くことにしたのでございます。

「よし、これで、話し方教室で飯を食っていけるぞ」

そう喜び勇んだ吉澤でございましたが、
しばらく経ちますと、窮地に陥ることになるのでございます。

「困った。
せっかく話し方教室を立ち上げたのに、生徒が1人も来ない。
いや、最初の面接には来るけど、いろいろ説明すると、
それからは、もうバッタリ来なくなる。なんでだ?」

妻の前で、
「一体、何が悪いんだろう
どうしよう。1000万あった貯金も、もう66万しかない。
もし、今度来た生徒も、入会しなかったら、俺はコンビニでバイトをする」
吉澤が半ば泣きそうになりながら訴えると、

「あなた、まだ66万あるだから、もうちょっと頑張ってみて。
でも、どうして、みんな最初来て、次に来なくなるんだだろう・・・

そうだ、わたしがお客さんになるから、あなた
いつもやるようにやってみて」

これから、夫婦のロールプレイが始まります。
妻が、吉澤の元に来たお客さんの役を演じ、
吉澤がそれに対応する、まさにロールプレイングです。

「こんにちは。
どうして、こちらにいらっしゃいましたか?」

「あがり症で、人前でちゃんと話せるようになりたくて」

「そうですか、それは大変ですね。
当教室では、こういったプログラムで話し方の指導を行っております。
プログラムについて、もう少し詳しく話しますと・・・・」

こう話を続ける吉澤に向かって妻は、

「ねえ、あなたの話は自分の説明ばかりで、
こっちの話、全然聞こうとしないじゃない。
これじゃ、もう来たくなくなるわよ。
今度からは、とにかく、来た人の話を聞いてあげて」

言われて、吉澤はハッとします。

「こんにちは
あ、そうですかー
会社で、人前で話すことがあるのが苦痛でー。
どうしても緊張して、あがってしまう・・・
あー、それは大変ですねー
え?もう頭が真っ白になってしまうんですか?
そういうことってありますよねー。」

初回のコンサルに来た人の話をただひたすら聞いていると、
状況が変わってまいりました。

「入会します」という人が立て続けに出るようになったのでございます
(講談なら、ここでパン‼️)

そして、それからは、とにかく、
一に聞く、二に聞く、三、四がなくて、五にも聞く
ということを心がけた結果、
吉澤の人生は、ドン底から上昇気流に乗ることになったのです。

本日のところは、「V字回復物語」という一席、
これをもって読み終わりと致します。


講談調で読むと、元気が出ますねー(私だけでしょうか?)

これは、話し方教室を実際に経営していらっしゃる方のお話を聞いたあとに
思い出しながら講談にしてみたものです。

お話して下さった方が、目に見えるように話して下さったので、
つまり、お話がストーリーになっていたので、
講談にしやすかったです。

ストーリーの力ってすごいですね。