アマカン講談師の講談的ひとりごと

講談と講談師について、アマチュア講談師が気ままに語ります。

第二十二席 ストーリーテリングの元祖 講談!

    ある出来事を、しっかり聞いてもらえるように、物語として、
「押したり引いたりしながら、メリハリをつけて読む」
これがストーリーテリングだと思います。

すると、講談というのは、やはり元祖ストーリーテリングということになります。

今日は、友達から聞いた出来事をちょっと脚色して、
講談風に、ストーリーとして語ってみたいと思います。

パンパン‼️(講談を始める時の張扇の音です)

今を遡りますこと、30年前、実家を出て観光地で居酒屋の経営を始めました。
父は10年前に亡くなり、今年90になる母は、
妹夫婦が面倒を見てくれております。

その妹から電話がかかってまいりました。

「お姉ちゃん、今度、2人で出掛けて一晩うちを留守にするんやけど、
ちょっと悪いけど、泊まりに来てもらえんやろか」
「いいけど、お母ちゃん、1人じゃ、危ないのかな」
「そんなこともないんやけど、最近、認知症が進んで来て、
おんなじこと、何度もいうし、やっぱり1人にしとくのが心配やわ」

確かに、去年、実家に帰った時も、ご飯を食べたばかりなのに
「お腹すいたからご飯にしなくちゃ」とか言うし、
ご近所の方の名前も、ちゃんと言えなかったりするから、
あー、だいぶん大変だなーとは思っておりました。

「わかった、お店の方は、パートの人に任せられるから行くよ」
と、私は実家に帰ることにしました。
(ここで、講談では、場面転換の張扇を、パン!と入れます)

「姉ちゃん、ほんまに母ちゃん、おんなじこと、
何度も言うから、覚悟しといて」
妹が、こう念を押しましたが

「大丈夫、大丈夫、何度同じことを言われても、イライラなんかせん、
何度も何度も同じこと聞いてあげる」
私は自信満々で答えました。

久しぶりに会う母は元気でした。
夕飯を前にして、二人で
「いただきまーす」

私が焼いた秋刀魚を食べながら、
「美味しいね、この秋刀魚」
「よかったわ」

しばらく黙って食べていると
「美味しいね、この秋刀魚」
「うん、ほんまによかった」

またしばらくすると
「美味しいね、この秋刀魚、あんたが焼いたの」
「そうや」
「美味しいね、この秋刀魚」
「・・・」
「美味しいね、この秋刀魚」
「・・・」
「美味しいね、この秋刀魚、あんたが焼いたの?」
「お母ちゃん、もう喋らんといて!」

あの自信と決意は何処へやら、
イライラに堪え切れなくなった私は、
冷たい言葉を、結構激しい口調で母にぶつけてしまったのでございました。

そして、夕飯を食べ、お風呂から上がた母は、
母は何ごともなかったかのように、また、
「お風呂入ったの?」
を何度も何度も繰り返すのでございます。

さすがに、この時は腹も立たず、
ただ、情けない気持ちになるばかりでございました。

夜中、母の部屋の前を通ると、いびきが聞こえてきました。
昔から、父に「お母ちゃんはいびきがうるさいからなー」
と言われておりましたが、相変わらずです。

かなりボケてはいるものの、体のどこが悪いのでもなく
食欲もあり、私は感謝しなくてはいけないなと思いながらも、
毎日、あの繰り返しにはやはり我慢出来ないかもと思いました。

仕事のある妹は、
「平日はデイサービスにお世話になっているから大丈夫や」と言うものの、
やはり大変な思いをしているだろうとつくづく感じたのでございます。

私は、帰ってきてまた居酒屋の仕込みをしながら考えました。

あんなに元気で、夫婦喧嘩では父を言い負かしていた母も、
年を重ねて、ああなった、
自分だってどうなるかわからない、
今、出来ることを楽しみながら一生懸命やっていこう、
そして、今度、母に会った時には、「黙っとき〜」は言わないでおこうと
そう考えたのでございます。

これが、友達から聞いた話を講談風に脚色しました
ストーリーテリングでございました。